文庫の窓から
玉機微義(2)
『玉機微義』には明、正統刊本を初見に、正徳、嘉靖の重刊本もあり、嘉靖版などは室町時代の末頃から戦国時代頃には既にわが国に舶載されていたものと思われる。筆者らの手許にも明版や江戸時代初期の古活字版があるのでそれを経いてみることにする。
この明版は明の正統5年(1440)原後序(補写1葉)、明、嘉靖9年(1530)序刊、全50巻8冊、整版、大きさ28.8×16.2cm、四周単辺、有界、毎半葉10行、毎行21字、版心:書名、巻数、網目、丁数、各冊淡藍色原装表紙、
また各冊の外装に厚紙を用い補装し、 "玉機微義" なる書き題箋と"寧固斎"の署名および"蓋静"の押印が認められる。また、原表紙には各冊とも門類目録と刷り題箋が貼られ、外題箋下部および眉上位には道三自筆の
"遂次詳閲"という書き入れがあり、巻末には以下のような道三自筆の書き入れと蓋静翁花押および押印が認められるものである。
『右全部五十巻以他板印本具遂参伍於弁異
別治聖教賢規之処加愚筆導斎下後学者之
天正第二甲戌年自七月二日至八月三日
洛下雖知苫戸盍静翁道三(花押印)』
(文庫の窓から、啓迪集(1)『臨眼、33:557参照)
また、研医会図書館蔵書の一つに曲直瀬玄朔道三の跋文刊語のある『玉機微義』があり、 これは香色原表紙の原印刷題箋を具えたいわゆる慶長版古活宇献上本風の大型判美本(全50巻8冊、四周双辺、有界、毎葉9行、16字、匡郭内28.2×21.2cm、印面約22.6×18.2cm、
表紙に8角押型模様、 4針和綴、版心:上大黒口魚尾、書名、巻数、丁数、下魚尾大黒口、活字約1.0×1.0cm)で、巻末に以下のような刊語がある。
『玉機微義者先師一渓翁所最重之書也門下之徒責予講
読仍属松印軒玄忠居士而鏤板矣大明朝鮮之模印字蓋
差訛頗多故集数本松讎之尚恐有遺失後学莫憚改之也
慶長乙巳上元日 東井叟玄朔(延寿)(玄朔)』
この慶長古活字版『玉機微義』には医徳堂守三の刊記等はないがその跋文刊語等から推定して医徳堂の印行であろうといわれる(川瀬一馬博士)。
また、この古活字版は正統版と朝鮮版とを交合して曲直瀬玄朔校訂、松印軒玄忠開版のものであろうという説(三木栄博士)もある。
この他『玉機微義』の刊本には以下のものが知られている。
|
1)明、正徳元年(1506)刊本
2)明、嘉靖18年(1539)作徳堂刊本
3)明、陝西布政司刊本
4)明、正統初刊本に拠る朝鮮甲辰活字印本(三木栄博士著『朝鮮医書誌』による)
5)寛永5年(1628)蘆甚左衛門、宇野善五郎開板本
6)寛文4年(1664)刊本
*5)、 6)はその序文年次より正徳元年汪舜民重刊本の翻刻と思われる。 |
このように『玉機微義』は安土、桃山時代の初め、すなわち天正年代には曲直瀬初代道三によってまとめられ、二代日道三玄朔等により、
さらに広く用いられ、江戸時代に
なってからもたびたびの翻刻重刊が行なわれ、道三流医学一門に最重用されたのみならず、月湖より田代三喜、更に道三へと受継がれた李朱医学の日本医学への導入の際の媒体的役割も果たし、その飛躍的発展に大きく影響した貴重な文献である。
参考文献
1 |
徐彦純 |
玉機微義 |
明、嘉靖9年(1530)序刊 |
2 |
徐彦純 |
玉機微義 |
慶長10年(1605)東井玄朔刊語 |
3 |
徐彦純 |
玉機微義 |
寛永版(無刊記) |
4 |
徐彦純 |
玉機微義 |
寛文版(無刊記) |
5 |
徐彦純 |
玉機微義 |
明、嘉靖18年(1539)作徳堂刊 |
6 |
岡西為人 |
中国医学に関する医学全書 |
日本医史学雑誌、14:70、1968 |
7 |
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中国医書本草考.68 |
大阪、南大阪印刷センター、1974 |
8 |
川瀬一馬 |
増補古活字版の研究(上・中・下) 335、 748 |
The Antiquarian Booksellers Association
of Japan、1976 |
9 |
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朝鮮医書誌 . 263、375 |
堺市、三木栄自家版、1956 |
10 |
三木 栄 |
朝鮮医学史及疾病史. 308 |
堺市、三木栄自家版、1963 |
11 |
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17 |
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18 |
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至文堂、東京、1959 |
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