"入門"という語句を辞書で引くと、"門内に入ること" "師の家に入って弟子となること" "初学者に便ならしめる為の書物" あるいは "学校、または私塾などに入りて其生徒となること" 等いろいろでている。
『医学入門』とは"医学初学者に便ならしめる為の書物"である。表題の『医学入門』は医学を学ぶ初学者にとってどんな入門書であったろうか。
『医学入門』は、そもそも中国、明代万暦3年(1575)、李梃(字 文清、健斎と号し、江右南豊の人)によって編集された『編註医学入門』に由来している。この原本の『編註医学入門』がわが国へ何時入ってきたか明確ではないが、その"編註"という文字を除き、『医学入門』と改名して、実際に応用され始めたのは江戸時代の初め、古林見宜(名 正温、通称 道芥、見宜、 号 桂庵、別号 寿仙坊、播磨の人、1579〜1657)よりといわれ、その初めて梓行されたのは元和3年(1617)の様である。また、『編註医学入門』は寛文6年(1666)に八尾玄長によって『新校正合類李梃先生医学入門』という書名で刊行されている。
『編註医学入門』は古人の善言をそのまま書き集めた医学全書で、首1巻、内集、外集7巻よりなっている。
本書には何か底本となった医書があったのか。「劉純が『医学小学』ノシレヌ言ヲ李?ガ潤色シテ諸家ノ説ヲカキ入、合点ノイキヤスキ様ニシテ医学入門ニシタゾ」という本書の閲読者の考察もあるように、劉純(字 宗厚、呉陵ノ人、『玉機微義』等の著者)の『医経小学』が底本になっていると思われる。
『編註医学入門』(明 万暦3年跋刊)は首1巻、内集巻1−3、外集巻4−7、計9冊より成っているが、なお本書の構成をみるためにその目録を次に揚げる。
目録
|
首巻 |
集例 先天図
天地人物氣候相応図 明堂仰伏臓腑図 用薬檢方総目 釋方 音字 歴代医学姓氏 原道統 陰隲(いんしつ) 保養 附道引 運氣
|
1巻 |
經絡 臓腑 觀形察色問症 脈訣 針道 灸法 附煉臍 |
2巻又2巻 |
本草: 風類、熱類、湿類、燥類、寒類、瘡毒類、食治類、食治方 |
3巻 |
外感 |
温暑 |
傷寒:
|
六經正病、表裏陰陽汗吐下温鮮、正傷寒、類傷寒、傷寒初証、傷寒雑症、傷寒変症、?症(さしょう)、死症、危症、婦女傷寒 |
内傷:
|
内外傷辨、内傷辨、脾胃勝衰論、内傷総方 |
4巻 |
雑病: |
外感風類、寒類、暑類、湿類、燥類、火類、内傷脾胃類、氣類、血類、痰類、鬱類、積熱類、諸虚類、?寒痼冷(ちんかんこれい)、養老、鬢髪 |
5巻 |
婦人: |
經候、姙孕、臨産、産後 |
小兒: |
形色、五臓虚實症、死症、乳子調護法、胎毒類、内傷類、外感類、痘疹 |
外科: |
瘧疽総論、條分脳頚部、手部、胸腹部、背腰部、臀腿部、足膝部、遍身部 |
6巻 |
雑病用薬賦 |
7巻
|
婦人小兒外科用薬賦、雑病総、通用古法詩括、急救諸方、恠疾、治法、習醫規格 |
本書の眼についての記述は巻4、巻6に次の通り挙げられている。
すなわち、第4巻に 眼病須先分表裏、五輪八郭亦此理。五輪白肺烏珠肝、心與小腸内外眥、上下両胞胃與脾、腎水一點黒瞳子、八廓寄位始有名、婦人小兒大同耳、暴赤腫痛澁且痒、翳膜シ昏惣是表、裏虚昏昧最羞明、内障黒花瞳散杳、近視陰虚遠視陽、涙冷晴疼多縹緲、外因風熱湿挟痰、内傷気血精神少、風熱兼虚亦有之、古人只消一字了、陽衰火少却宜温、外治點洗要手巧。
又、第6巻 雑病用薬賦の項に 眼分左右陰陽之殊、方治風虚気熱之疾、気眼恙活石羔、風眼○菊白疾、熱則清心為主涼膽通肝而腫突消、虚則滋腎為先補陽育神而晴明實、牛黄丸驚晴復常、兎屎湯斑瘡若失、墜翳必假神醫、?鼻也須妙質、洗既多方、點豈無術
|