研医会通信  19号  2008.1.8
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このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は『審視瑤凾』(1)です。

 

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審視瑤凾(眼科大全) (1)

 

 

中国では元の代になってから、医方に大方脈科、小方脈科、風科、産科兼婦人雑病科、眼科、 口歯咽喉科、正 骨兼金鏃科および瘡腫科の9科目が採用され、眼科という専門の1科の呼称が顕われている。

わが国においては文武天皇(697〜707)の大宝元年 (701)に所調大宝律令が発布され、その中の医疾令(唐医制に基づく)に、 體療(内科)、 少小(児科)、 創腫(外科)、耳目口歯の4科が設けられているが、眼科は耳口歯の中に入れられ、 4部門を1科として取扱い、独立した専門の1科としては認められていなかった。眼科が独立して1科をなし、その専門書(今日私共が見ることのできる)があらわれるようになったのは、中国においてはおよそ明代以降であり、 また、わが国では室町時代に入ってからとみられている。

中国では元の代に至ってインドとの交流が盛んとなり、 佛教とともにインドの眼科が中国に入り、明の代にその最盛期を迎え『龍樹菩薩論』『眼科龍木論」『銀海精微』『眼科全書』『眼科百効全書』『玄機啓微附録』『明目良方』『明目神験方』等眼科の専門書が次々と著わされた。ここに採りあげた『審視瑤凾』も明代に著された眼科専門書の一つである。
 『審視瑤凾』は『傳氏眼科審視瑤凾』あるいは『眼科大全』といわれ、博仁字(字、允科、明末の人、眼科専家)が編集した眼科専門書である。今日伝えられている刊本はその巻頭に

秣陵傳仁宇允科纂輯 壻張文凱延献参閲
廣陵林長生聲震較補 男傳維藩国棟編集
 甥張秀徴?(王に行)訂正 公猷倫(ニンベンではなくテヘン)
大梁周靖公亮節較梓 體仁?   同次
と記されているものが主で、版は明末清初の代と推定される刊本である。

 本書の成立は初め傳仁字が編集したものを傳仁字の子の傳国棟(維藩)が張延献(文凱)とともに軒(黄帝軒轅)、岐(岐伯)の黄帝内経を始め李東垣、朱丹渓、張従正、劉河澗等の金元医家に至る諸書およびインド医書の訳本を広く参考にして改訂増補し、『審視瑤凾』という書名を付け、博氏一家の秘本として編集発刊したものであるといわれている。(小川剣三郎博士)しかし、こうした広範な本書の編集に当って他にその規範又は底本となったものは全くなかったのだろうか。

 伊東弥恵治博士は、清の王協がその著 『青嚢完璧』という本の序文に、『審視瑤凾』は『證治準縄』(明・王肯堂著1598年刊)から謄写したものである、と指摘している、と述べられている。今、明の万暦30年(1602)の序のある『證治準縄』(第7冊、第1丁)と明末清初版『審視瑤凾』巻之首 (第1冊、第3丁)を比較してみると、全く同文の部分もあり、『證治準縄』から引用されていることがわかり、『證治準縄』が『審視瑤凾』の編集に際し大いに参考にされたことが窺える。

 筆者の手許にある明末清初版と思われる刊本には陸彬、傳国棟の序が掲げられているが、 ともに明、崇禎17年(1644)の年号が入っている。河本重次郎博士はこの崇禎甲申の序文年号入り『眼科大全』を第2版として取り扱われ、これ以前20〜30年の間中にその初版が出版せられたものと思われる、と述べられている。

本書は前腎醫案、 巻之首および巻1より巻6までの総論ならびに各論から成っている。本書は"条理詳備亦可貴也"といわれ、著名な眼科専門書であるが、その内容の大綱を総目録によって記せば次の通りである。

傳氏眼科審視瑤凾総目

巻第一:凡例十二条 前腎醫案 五臓所司兼五行属動功六字延壽訣 太極陰陽動静致病例 五輪輸定位之圖 八廓定位之圖 五輪歌括 五臓主病 八廓主病 臓腑表裏三陰三陽輪廓貫通 五運之図 六気之図 逐年六気総論已上倶 載首冊 五輪 所属論 八廓所属論 五輪不可忽論 勿以八廓為無用論 目為至寶論 開導之後宜補論 眼不醫必瞎辨論 點服之薬各有不同問答論 用片得効後宜少用勿用論 鈎割針烙宜戒慎論 棄邪帰正論 用薬寒熱論 用薬生熟各宜論 識病辨症詳明金玉賦

巻之二: 目病有三因 診規 目不専重診脉説 目症相同所治用薬不同併慎問答 君臣佐使逆従反正説 原機症治十八条経験湯剤丸散四十六方 症方備録巻二首

巻之三: 運気原證 目痛 寒痛 頭痛 眉骨痛 目赤白痛 白ヨウ(やまいだれに養) 腫脹 外障 目病三十八症 経験湯剤丸散七十七方 症方備録巻三首

巻之四: 運気原證 目瘍 目疣 漏晴 脾病 姙娠 痘疹 疵疹 疳傷 驚? 目閉不開 ?目直視 目直視 目仰視 目剳 目病二十三症 経験湯剤丸散六十八方症并方備録巻四首

巻之五: 運気原證 目昏 妄見 内障 内障根源歌 鍼内障前法歌 鍼内障後法歌 附太玄真人進還晴丸表 金鍼辨義 煮鍼法 用水法 撥内障手法 開鍼三光符咒封鍼符封眼法 開内障圖 推逐日按時人神所在當忌 目病三十四症経験湯剤丸散七十二方 目症方備録巻五首

巻之六: 運気原證 目涙 風治諸因目病十三症 経験湯剤丸散四十六方 症方備録六首 眼科鍼炙治目要穴形圖鍼炙避人神取十二建人神之忌時 附前腎治目醫案補遺諸方計十八方 點眼薬法 秘製點眼丹薬諸方計八方 敷眼諸薬方計四方 洗眼薬計二方 治眼吹薬計五方
止定痛薬計二方



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     図1 傳氏眼科審視瑤凾 扉 明末清初刊  (醉?(田に并)堂 煥文堂蔵板)

 

 

 

         図2  同 巻1 巻頭

 

              

     図3  傳氏眼科審視瑤凾 扉 明末清初刊 (濟世堂)

 

 


   
図4 傳氏眼科審視瑤凾 扉     明末清初刊  金ショウ(門に昌)巽記蔵板 重訂版
 
  図5   傳氏眼科審視瑤凾 扉 尾州馬島明眼院学舎の教材に用いられていたと考えられる。

天保10年(1839)写。

 

 

 

(1980年8月 中泉、中泉、齋藤)

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