研医会通信  25号  2008.6.6
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このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は『真流真教之巻』です。

財団法人研医会図書館 利用案内

研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

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『真流真教之巻』

 

 

 かの有名な「病草子」(鎌倉時代初期作)にみられるような眼病を治療する医師らしい者は、既に鎌倉時代には現われていたが、南北朝から江戸時代にかけて実地医術の眼科が馬嶋流によって広められるようになって、穂積(住)、山口、佐々木、青木、酣酪、南蛮等の諸流派が興った。
 これら諸流派は一流一派をなしていたものの、その眼科の内容においては大体中国、明代の眼科を主体としている馬嶋流眼科と大差なく、いわゆる五輪八廓説を規範とし、それに自己の治験や一寸した処方の差異を加えた一方一術にすぎなかったように解される。というのは当時の各流派間の差異がほとんど"口伝有り"という語に秘められているからである。

 さて、 ここに掲載した「真流真教之巻」という秘伝書は天明年間(1781〜1788)に因幡處士撲庵永井次郎大江夫惟によって伝えられたもので、幅16.5cm長さl m 82cm の料紙に撲庵が自書した巻子装1巻である。

 この真教之巻によれば、本邦(天明の頃)には馬嶋、 家里、金子、池田の四姓の眼科があり、この四家の眼科治術の奥儀を撲庵の師が極め、真流と名づけた。その口授を撲庵が1巻に顕して弟子に伝えたものであるという。また、「真教之巻」には当流の最も重く秘するところとして次のように記述している。

 「真教曰、人生ノ本、気血相和スルノ神也、気ハ無形ニシテ陽ナリ、血ハ有形ニシテ陰也、誠二古農極也、是ヲ以、血気共二有除不足ナケレハ、則陰陽和平ノ人卜謂也、陰陽和平ナラザレハ、神全タカラズ、則疾病農人ト謂フナリ、彼気血流行シテヤマズ、是ヲ神ノ徳卜謂ウ也、気血流行農大会ヲ為ス、是胃ノ気也、胃ハ五臓六腑ノ海ニシテ、一身ソノ気ノ舎ル根元ナレハ、医術針灸湯液皆、胃ノ気アラザレハ其効ヲ見ル事不能、故二當流眼科ノ治術卜云伝エ、是又帰スル所、只胃農気ニアリト知ルベシ、萬病ノ形ニ迷フ事ナカレト也、

 真教曰陽気ハ、則元気、元気ハ、則胃気也、只一気ノ別名卜知テ、必真眼ヲ動カス事ナカレト也、
 真教曰、胃ノ気ノ虚実ヲ知ルコト腹候*ノミ、故二腹候ノ術、當流尤モ重ク秘スル所ナレバ、其ノ人ニアラザレバ、伝フル事カタシ、故ニ授ズクルニ、口伝ヲ以テスルナリ、
 右之三ケ條卜、尤モ其ノ伝ヲ重ンズ、腹候ノ術ヲ授ケテ、湯液農主治ヲ知ルべシ、必腹候真意ヲ本トシテ、眼疾ノ変証ニ迷フ事ナカレ、只當流ハ腹候真眼ノ観ヲ失シノフベカラズ、是又口授ノ重キ所也」

 そしてこの流派の用いた湯液之方と目薬方を次のごとく掲げている。

 
湯液之方
  黄龍湯: 柴胡、半夏、黄苓、人?(浸に草冠がついた字)、大棗、生姜、甘草
青龍湯: 柴胡、桂枝、牡蠣、大棗、生姜、甘草、黄?
赤龍湯: 柴胡、半夏、桂枝、黄?、大棗、生姜、甘草
白龍湯: 柴胡、半夏、黄?、石膏、知母、大棗、甘草
黒龍湯: 柴胡、半夏、黄苓、枳実、厚朴、芍薬、甘草、生姜、大棗
大龍丸: 大黄、亡硝、甘草
小龍丸: 大黄、蔦窮、甘草
 
目薬方
    本方: 炉眼石、寒水石、滑石、石膏、貝子、朋砂、製法口伝
西味膏: 炉眼石、寒水石、滑石、石膏、製法口伝
朱砂丹: 朱、辰砂、滑石、枯誉、麻香、主治タグレ癬
  法口伝  
    三砂丹:  炉眼石、烏賊○(石+艾)、○(石+峯?)砂、龍脳、辰砂。主治赤筋者口伝。
     

*「腹者有生之本、故百根於此焉、 是以、 診病必候其腹、 外證次之、 蓋有主腹状焉者、 有主外證焉者、 因其所主、 各殊治法」また「先證不先詠、 先腹而不先證也」といい、疾病を診するは主に腹候と外證とに因るべしと論ずる説、昔益東洞はこの説を重んじた(富士川游著『日本医学史』)。

 

粉霜是妙散:

粉、艾霜。主治星諸膿者口伝、製法口伝掛薬也。
竜馬散: 馬芽消、竜脳。二味為未包紙百日壊於養掛之也、主治翳膜掛り遠明ヲ失フ者口伝。
本方洗薬: 主治諸証用之口伝、萬明煎卜名、三味細製煎亦振出也、薬品口授。
連煎: 蓮、帰、芍。三味細製水煎シテ洗之。主治卒眼中赤如朱或腫痛甚者。
猿膽水:  猿膽。一味水二入レトキ用之。主治眼中立竹木者。
茗石: 眼目百病最上良薬也。種品丼製法重伝口授當流之秘薬也。

 このように真流真教は既述の三ケ條と腹候の術を口伝とし、因幡(鳥取県)地方に伝えられた眼科の一流派と思われるが、因幡の處士(官につかえざる士)撲庵永井次郎大江夫惟の伝記については詳細不明である。諸先輩のご教示を伏してお願いする次第である。

 

 

 

 

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図1-1   真流真教之巻 天明6年(1786)識。
各流派においてはこうした秘伝書が極く限られた門弟に相伝され、その奥儀は口傳口授により他言は許されなかったのである。
 
  図1-2   真流真教之巻


 
  図1-3   真流真教之巻

 

 

  図2-1  吉原流秘伝之書 寛永12年(1635)9月25日識。
巻子装(約20.5cm×5m20cm) 水晶軸淡彩色眼病絵入 主に薬物処方を記述したもの。

 

 
  図2-2 吉原流秘伝之書

 

 
  図2-3 吉原流秘伝之書

 

 

 

  主な参考文献
  1) 小川剣三郎: 稿本日本眼科小史. 96、吐鳳堂、 東京、1904.
  2) 福島義一・山賀勇: 日本眼科全書1、眼科史(1). 日本眼科史.77、金原出版、東京、1954.
  3) 日本学士院:  明治前日本医学史4.269、 日本学術振興会、東京、1964.
  4) 富士川游: 日本医学史.392、 日新書院、東京、 1943.
  5) 森日幸門・毛利部紫山: 診療漢法醫筌.21、森口漢法治療学研究所、大阪、1975.

(1981年1月 中泉、中泉、齋藤)

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