杏林庵医生(日本人?)によって編述された眼科専門書、『眼目明鑑』(眼目明鑑、 4巻、眼目明鑑薬名修治能毒、巻上、下)が刊行されたのは元禄2年(1689)孟春、(四条坊門通東洞院東江入町、水田甚左衛門開板)であり、
これが日本で最初に刊行された眼科書であるということは周知の通りである。『眼目明鑑』はその後、富士山が噴火した年、 宝永4年(1707)、
江戸日本橋南1町目、出雲寺和泉橡出店より「改正眼目明鑑」として開板された。
この宝永4年版「改正眼目明鑑」がでてから約19年後の享保11年(1726)10月、藤井○(己の下が口)求子見隆纂、長岡恭斎丹堂校正に係る『眼目精要』が、四条通寺町西江入町、めと木屋勘兵衛により刊行された。
『眼目精要』は日、月、星の3冊より成り、単行の眼科専門書として」取り扱われているむきもあるが、享保11年に藤井見隆纂輯、長岡恭斎丹堂校正による「医療羅合」と同刻されたものと考えられる。『医療羅合』の序文に、「以圀字ヲ分チ病門ヲ以テ俗語ヲ拆チ治例ヲ輯メテ成十二巻ト目テ之曰ク○(イ=醫の酉を巫にした字)療羅合卜云云」とあり、
また、「医療羅合」の末尾に附された筮(めと)耆(ぎ)軒(めと木屋勘兵衛)蔵版目録には、" 『医療羅合』全部12冊、諸家の秘方、和漢の妙剤、病門をいろは順にわけ、百病を治する"という広告がのっている。筆者の手許にある享保11年版『医療羅合』には、
1) |
『医療羅合』 |
巻1-7(大尾)(7冊) |
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『医療羅合』 |
眼目、 日、月、星(3冊) |
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『医療羅合』 |
小児 上、下(2冊) |
2) |
『医療羅合』 |
巻1-7(大尾)(7冊) |
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『医療羅合』 |
眼目精要 日、月、星(3冊) |
の2種類があり、何れも、享保9年(1724)甲辰秋9月、藤井○(己の下が口)頬○(災の火を子に変えた字)見隆述の医療羅合序文と、享保10年(1725)長岡恭斎の医療羅合弁言を掲げている。
『医療羅合』の凡例によれば、 その成立について次のように記されている。
「此集は諸家の秘方、 即効ある者を多年伝受して、 これを書写、并に近来見聞する所、和漢の妙剤を雑記したる、数十巻、蓄で書函に満てり。蠹魚(とぎょ)の蝕んことを恐れ、暇日これを繙(ひもと)き、煩蕪をかり、精華を撮み約(つづみ)て一帙とし、庸医童蒙の徒も了解し易からんため、文辞を不荘、悉く俚語を以て假名に誌し、いろは字を用て病門を分類す、閲者其部下に於て治法を求むべし。云云」
このように『医療羅合』は眼目、小児を含めて合計12冊よりなることは明らかであるが『医療羅合』のいろは順分類には"めの部"も挙げられているにもかかわらず、何故眼目と小児の部門のみを独立させたのか、あるいは、
この部門を藤井見隆がより重視したものとも考えられる。
『眼目精要』は日、月、星の3巻よりなるが、その巻末に、「右眼目精要者、 或家秘書数巻中広有効験之方撰出之為三巻旦習学徒欲令易解以和字興俗語記者也」 とあるように、解りやすい和字、俗語をもって書かれたもので、簡略、通俗的な治療実務書というところ、現代的にいえば"簡略眼科診療の実際"といえようか。その内容の概要を示すために以下に目録のみを列挙する。
眼目精要 日 目録 目の見やうの伝、眼目療治式法、眼目諸薬主治并製法之事。
眼目精要 月 目録 眼病療治の法、 目によつて五臓の病を知法、眼病を見法、用薬製法、用薬加減法、眼によつて薬用捨の事、白明丹、黒神丹、金明丹、同方、照蟲散、金龍丹、五金膏、仙人膏、傷風退翳散、又方、清眼散、天石丹、白龍丹、珍珠散、太乙膏、明眼散、龍謄膏、滑石散、
翳障目薬、 打撲眼薬、 同方、 竹木刺眼薬、又方、塵芒入目たるを治す、雀目を治す、又方、風眼痛甚きを治す、爛目を治す、一切の眼病薬毒に中りたるを治す、一切の眼病洗薬、洗薬、又方、外障を治す、眼目蒸薬。
眼目精要 星 目録 病眼洗薬の名方、 病目散し薬、撞刺目の名方、痘疹目に入たるを治す、 内障の名方、膜の薬、血目を治する妙方、翳障眼の名方、撞刺目の名方、
目蛭の薬、 目へ蜘蛛の巣の入たるを治す、眼目甚だ痛を治す、雀目の妙方、爛目の奇方、同付薬、簾膜の名方、涙を止る名方、翳をはらす薬、血気逆上して翳には、中障の薬、
目の腫たるを治する薬、 目のまい出たるを治する薬、翳障の跡より努肉出たるを治す、 目より血出るを止る、睛(めのたま)すはりて動ざるを治す、外障を剪法、内障の針法、温鉄七種の秘事、熱鉄の心持秘事、
目のくだし薬、龍丹膏、痘疹目の薬、金香散、水薬、小児の疳目を治す、辰砂散 さし薬、翳障を治す、源氏色薬 翳障の出たるにかくる、家伝目薬の方、同洗薬秘方、男女ともに頭に血こもりて目を煩ふを治す、爛眼洗薬の方、爛眼の内薬、翳障の薬、病目洗薬、
目に稲芒の立たるを治す、撞刺目、爛目、撲損目、膜目、疼目等を治す、日生散さし薬、 明珠散 さし薬、 揆雲散 内薬、
地黄湯 内薬、真珠散 さし薬、大真珠散 さし薬、痘瘡目薬、痘疹目の薬、龍腦散 さし薬、明珠散 かけ薬、五霊膏さし薬、蛇骨散
さし薬、龍脳散 さし薬、同方 同、雀子散 同 うづきを止るに妙なり、増損四物湯 萬の目并に血の道、古血、腰冷を治す、人参四物湯
疵目打目に用、三黄円 疵目小瘡 ?雑(むねのいろいろ)によし、人参散 萬の目によし、川○(キュウ=くさかんむりに弓)湯
眼の疼を、上気によし、大血湯 眼の血を去、白○(シ=くさかんむりに止)湯 目の惣薬なり、人蓼湯 疳目によし、大黄川○(キュウ=くさかんむりに弓)湯
諸の気病の目によし、眼の疼を止、頭の血を下し、大便結するを治す、金露円 頭の血を下し、 目の疼を去る、 金明丹 年久き外障膜によし、
朝日散、天地散、珍珠散、眼目萬の痛を治す、地黄散 白く赤く痒く目にむかへば涙出て羞明開がたきを治す、荊芥散 目赤く腫たるを治す、俄に目赤く熱し腫るるを治す、涙出て
止らざるを治す、二妙散 目昏く涙こぼるるを治す、蛇骨散 目赤く爛るを治す、揆雲散 風毒を散し膜を退け赤く爛るを治す、
同 男女風毒のぼり目昏く膜出熱気し、涙出瞼赤くただれ、外眥内眥肉さし出瞳出るを治す、内障の名方疵目の内薬、疳目の内薬、
外障の内
薬、洗肝故、疳目出て腫蟲証によし、養命丸 疳瀉り目に筋かかり白眼により翳障出来五色にかはり泄瀉するを治す、 目に翳障の出たるを治す、
同 内薬、 同 さし薬、私中散 疳にて写し目に筋あるを治す、春霊散 目の惣薬、八帰丹蘇呂王流眼目奇方 萬の目を治す、加減青石散、虎肉散、黒内障散、白内障散、青内障散、黄内障散、辰砂散
撞刺眼によし、明星散 目瘡痘目を治す、五霊膏 一切の目によし、龍脳散 一切の目によし、麝香散、加減四物膏、加減人参湯、加減清気湯、明眼地黄湯、洗薬
逆上の気をおさむ、水薬洗薬 一切の目を洗ふてよし、 目洗薬 何れの目にもよし、洗薬。
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図1 『眼目精要』 表紙 享保11年(1726)刊 めと木屋勘兵衛開板
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