研医会通信  30号 2008.11.7

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このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は『格致余論(1)』です。

財団法人研医会図書館 利用案内

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  格致余論(1)
   
中国医学における学問的な分派の独立は金、元四大家(劉、張、李、朱)に始まるといわれる(石原明博士)。この特色ある医説が明に受け継がれ、更に李朱医学(李東垣、朱丹漢の医説)としてわが国にもたらされたのは田代三喜が長享元年(1487)に入明し、約12年間医学の修業をつんで帰国(明応7年、1498)してからのことである。

 わが国に伝えられた李朱医学は田代三喜の間人、曲直瀬(一溪)道三らにより日本人に適合する様に改良され普及された。この様に日本化された李朱医学はいわゆる道三流医学として日本の医学に多大な影響力をもった。

 『格致餘論』は元の朱震亨(丹溪)の撰に係り、『内経素問、 霊枢』『八十一難経』の奥旨に至り、 また、 張仲景、李東垣の医説により、陰不足陽有餘の論、相火の論および生気通天論、病因章句の弁等を述べた医書である。つまり、朱震亨は人の一身には常に陰気が不足し、陽気が有餘しているのであるから、気ままで虚弱な人々のためには陰を養うことにより体力を増進して治療の実を挙げるとよい(石原明著『日本の医学』)とし、 この湿熱相火および陰不足陽有餘等の義を集めて『格致餘論』の編冊をなしたといわれる。
 本書は46論、全1冊よりなるが、その内容を目録によってみると以下のごとくである。

  1.飲食色欲餃序
2.飲食筏
3.色欲栽
4 陽有餘陰不足論  
5.治病必求其本論
6.ショク(「さんずい」+嗇)脉論
7.養老論
8.慈幼論
9夏月伏陰在内論
10.痘瘡陳氏方論
11.痛風論
12.○(「やまいだれ」+亥)瘧論
13.病邪雖実胃気傷者勿使攻撃論
14.治病先観形色然後察脉問証
15 大病不守禁忌論
16.虚病痰病有似邪崇論
17 面鼻得冷則黒論
18 胎自堕論
19.難産論
20.難産胞損淋瀝論
21.胎婦轉胞病論
22.乳硬論
23.受胎論
24.人迎気口論
25.春宣論
26.醇酒宣冷飲論
27.瘧疸當分経絡論
28 牌約丸論
29.鼓脹論
30 疝気論
31 秦桂丸論
32 悪寒非寒病悪熱非熱病論
33.経水或紫或黒論
34.石膏論
35.脉大必病進論
36.生気通天論病因章句辨
37.太僕章句
38.新定章句
39.倒倉論
40 相火論
41.右大順男右大順女論
42.茄淡論
43.吃逆論
44 房中補益論
45 天気属金論
46.張子和攻撃注論

 これらの論題に関しては現代医学においても深い関心が寄せられているものもある。ことに今日社会の最大の関心事の一つとなっているのは癌についてである。本書に論述されている乳硬論はわが国へ移入された大陸医学の中で癌関係論文として注目される。
 元禄9年(1696)に開板された岡木為竹(一抱子)撰『格致餘論諺解』にはこの乳硬論の注解として次の様にのっている。

「婦人乳房ノ皮裏二於テ菓核ノ如キ物ヲ生ジ、漸ク硬大二成テ数年ニシテ遂二腫潰ス、其ノ潰爛スル者ヲ乳岩卜名ク、未ダ潰セザル者フ乳硬、或ハ乎乳核卜号ク、共ノ始ハ痛マズ、腫レズ此ノ時速二治シテ兪エ易シ、久シクシテ乳岩卜成ルニ至テハ多ハ念ルコトナシ」
 また、『格致餘論』の原本には「不痛不痒数十年後方為府陥名日嬌岩」(槍陥ノ者ヲ此ノ如ク名ク嬌ハ乳也、 ○(「女」+「爾」)岩ハ乃チ乳岩ノ豪定)と述べられている所から、本書の成立を元(中国、元代)の至正7年(1347、序)とみるならば乳岩について中国においては元の代に既に論じられていたことが窺われる。

 わが国においては癌という字が芦川桂州編『病名彙解』(貞享3年、1686刊)の"痼発"の条に出ている。また、李朝世宗15年(1433)刊『郷薬集成方』巻41、瘍疸門に癌の候項が掲載されている(三木栄博士)との報告がある。しかし、乳岩に対し乳癌の字を用いたのは、わが国最初の百科大辞典『和漢三才図絵』(享保7年、1722刊)の編者寺島良安であろうといわれる(中野操博士)。

 また、本書には受胎論という題目のもと"胎を成すこと精血の後先きをもって男女を分つ…"つまり男女生み分けの方法を具体的に論じているが、 千葉大学名誉教授鈴木宜民博士はこの受胎論すなわち男女生み分けの方法を伴性遺伝性疾患たる色覚異常の遺伝の面から詳論を発表されている(『日本医事新報』No.2969、p.59参照)。

 

 

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図1 格致余論 序文 慶安2年(1649)刊 
 
   
図2 図1同版  巻頭



 
図3 格致余論 朱震亨序文末 明暦3年(1657) 山本長兵衛開版 『東垣十書』の内

 

 

 
 
図4 格致余論 目録と巻頭 寛文5年(1665) 村上勘兵衛新刊

 

 
 
図5 格致余論 巻頭 山本長兵衛開版 『東垣十書』の内

 

 

 

 

 

(1981年 6月 中泉、中泉、齋藤)

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