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このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は [眼科諸流派の秘伝書(10) ]

『玉泉房流書伝集』 です。

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眼科諸流派の秘伝書(10)


19 玉泉房流書伝集
 この流派の古写本に挙げられている書名には玉泉流、玉泉房流、玉泉坊流、玉仙流等いろいろあるが内容は大同小異である。

 眼科諸流派の興りを考察する場合、寺院との係りを探ってみることが多いが"玉泉"という名のつく寺には伊豆下田にあるタウンゼント・ハリスで有名な玉泉寺、中国湖北省営陽県玉泉山の山麓にある玉泉寺(隋の開皇12年天台大師が隋の場帝晉王広に請うて建立)等があり、中国ではその後、玉泉の名は天台宗の異称として用いられるようになったといわれる。また馬島流分派には五流五家があって、その五家の中に玉泉坊という一家が含まれている。『玉泉房流書伝集』が前記と係りがあるや否や不明であるが、本書に伝えられる記述によって玉泉房流眼科を窺知してみよう。

玉泉房流眼科は内経(黄帝内経素間、霊枢)に基づいた五輪所属説、すなわち

  肝属木日風輪在眼為鳥晴
  心属火日火輪在眼為二眥
  牌属土日肉輪在眼為上下胞
  肺属金日気輪在眼為白晴
  腎属水日水輪在眼為瞳子 

によって眼病論を説いた眼科流派とみられるが、その眼疾諸症と治療法を記述した主なものには『玉泉房流眼目秘伝書』『玉泉房東暾秘録』『玉泉流眼科秘伝書』『玉泉房流伝書』『秘密目伝玉泉房流』等が伝えられている。これらの秘伝書は何れも記述内容の面では大差はほとんどないが、秘伝書の相伝者および書写年代の相違から、中には漢文のもの、和文のもの、あるいは『玉泉房流書伝集』のように4巻に分けて記述されているものもあり、また、小切紙書として記述されているものもある。

 『玉泉房流書伝集』はおよそ80葉、全1冊横長本(14.5×19.5cm)、 片仮名漢字混合の和文で記述され、全体を4巻に分けている。その主な記述項目は次の通りである。

巻1:  内経五輪所属説 眼病症について(黒内障、青内障、黄内障、白内障、中障、風眼、入目、心表、入月、目労、通目、月ノ輪、笹付、星目、玉入、倒睫毛、目綿目 突目、爛目、病目、疵目、疔目腫弱、鳥目、目イボ、物入目、目コブ)
巻2:  掛薬  内薬及洗薬調合(巻1に掲げた眼病に対する)
巻3: 小児門 肝疳、心疳、牌疳、肺疳、腎疳の掛薬、内薬
巻4: 薬種: 能毒(竜脳他54種の薬性)

 本書には『目ハ肝、心、牌、肺、腎、五臓ノ精トシルヘシ、黒目、瞳子ハ肝腎ノ二臓ナリ、上気シテ其精目病ヲナスナリ』と教え、「先病人二向テ目ノ善悪ヲ見ルコト水ノ底ヲ見ルガ如ク、目ハ是一生ノ鏡気ノ束ナリ、 目ヲ見ルコト病人ノ心二随テソノ当ル処ヲ見ルコト第一ナリ、病人ノ心二違フコト勿レ」と心得を示している。

 このように本書に述べられている眼科は明らかに中国古代の医説によるもので、つまりその基本的病論を『内経』に求めて説かれている眼科とみることができる。しかし、玉泉房流眼科としてわが国に何時頃如何なる人によって招来され、創められたかという点については未詳である。『稿本日本眼科小史』(小川剣三郎著)によれば『玉泉流書伝集』の写本に享保18年(1733)とあり、 また、『山崎文庫目録』(順天堂大学)に所載の『玉泉房流書伝集』の裏表紙には慶長5年(1600)の書写年記が認められるときく、かかる点からみれば玉泉房流眼科は少くとも慶長年代以前に存在していたのではなかろうかと思われる。

 


眼科諸流派の秘伝書(2〜10)主な参考文献

   

沼田 頼輔:  現存中最古の眼病祈願状、 実眼,  3: 240、1920
小川 博: 義経眼病祈願文( 筆蹟)  実眼,  12: 67、1929
小川剣三郎:   市畑の薬師、 実眼, 1: 211、1918
   〃 家里流眼科  実眼, 1: 479、1918
   〃 家里伊賀守  実眼, 1: 480、1918
   〃 家里伊賀守  実眼, 1: 555、1918
   〃 市原横歛、家里梅慶  実眼, 1: 555、1918
   〃 市原光蓮、牢人目医者。 実眼, 1: 555−556、1918
   〃 家里流眼書 実眼, 4: 196、1921
   〃 南蛮眼目療治書 南蛮流眼目薬性、 南蛮流見立、點服、 薬方. 実眼,  14: 206、1931
   〃 南蛮流眼目療治之事、 ゑなみ流眼目療治極書  実眼, 14: 207、1931
愛知県医師会 愛知県医事風土記 9、 23、 27、 104、107、 114、 150、 156、 178、 181、 188、 242、342、363、愛知県医師会、 名古屋、1971
金岡 秀友 古寺名刺辞典 東京堂出版、 東京、1972
中泉 行正 明治前日本医学史( 日本学士院編)4; 日本眼科史、 269、 日本学術振興会、 東京、1964
福島義一・山賀 勇 日本眼科全書( 日本眼科学会編)1: 眼科史、1: 日本眼科史 77、金原出版、東京、1954
小川剣三郎 稿本日本眼科小史. 96 吐鳳堂、 東京、1901
   〃 稿本日本眼科年表. 小川剣二郎識、1929
   〃 南蛮流由来<刀圭閑話30>  中外医事No. 864、 351
石原 明 医史学概説  医学書院、東京、1955
野田 昌 馬島流眼科と明眼院  大治町役場、愛知、1976
京都府医師会 京都の医学史   1319、 思文閣、 京都、1980
古賀十二郎 西洋医術伝来史  22、 日新書院、 東京、1942
佐藤 栄七 日本洋学編年史   錦正社、 東京、1965
中野 操 増補日本医事大年表  思文閣、 京都、1972
服部 敏良 江戸時代医学史の研究 吉川弘文館、 東京、 1978
   〃 室町安土桃山時代医学史の研究  吉川弘文館、 東京、1971
富士川 游 日本医学史 230、 日新書院、 東京、1943
   〃 医術と宗教 24、 56、 第一書房、 東京、1940
   〃 科学随筆医史叢 292、334、書物展望社、東京、1942
蓼 温仁 支那中世医学史 カニヤ書店、 京都、1932
福島 義一 眼病風土記 249、 日本通俗医学社、 東京、大阪、 1943
   〃 眼病の歴史 65、人文閣、東京、1943
福井県医師会 福井県医学史 25、福井県医師会、1968
三浦 三郎 小絵馬の図柄に現われた疾病観と治療観、<医学選粋>4、10、 日本医学文化保存会、東京、1975
山崎 佐 医事談叢  219、 日本臨林社、東京、1948
横田 全治 諸国盲人伝説集  50
花咲 一男 絵本江戸売薬志  72、近世風俗研究会、東京、1956
関 以雄 衛生史譚  136、吐鳳堂、東京、1920
千寿製薬K.K.編 四天王寺―眼に因んだ寺社縁起―(1) 銀海、38、大阪、1968
   〃 壺坂寺―眼に因んだ寺社縁起―(2) 銀海、39、大阪、1968
   〃 久米寺―眼に因んだ寺社縁起―(3) 銀海、40、大阪、1968
   〃 馬島明眼院―眼に因んだ寺社縁起―(4) 銀海、41、大阪、 1968
   〃 唐招提寺一眼に因んだ寺社縁起一(5) 銀海、42、大阪、1968
   〃 柿本神社―眼に因んだ寺社縁起―(6)、 銀海、 43、 大阪、1968
中泉 行正 古医書をたずねて、132、千寿製薬、大阪、1978
小倉 重成 眼科関係名家、 <漢方の臨牀>9 No.11-12、358、東亜医学協会、東京、1962
大田正雄稿、藤井尚久校補 明治前日本医学史(日本学士院編).3: 211、 日本学術振興会、東京、1956
武田科学振興財団 杏雨書屋蔵書目録 大阪、1982

 

 
 

 

図l  玉泉房流書伝集 巻2  内障掛薬、 同内薬

 


 
 

 

図2  玉泉流目眼秘伝書
青木広瀬流、 日唐流、馬島流等諸家の秘法、秘薬の伝も収録す


 

 
 

 

図3 玉泉房流伝書
小切紙方式による簡略秘伝書

 


 

 


 

(1982年 8月 中泉、中泉、齋藤)

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