32. 眼目家伝書
一般に家伝書といわれているものは、ある家に代々伝えられている秘法などが書かれたもので、本来一子相伝の秘書として作り遺されているものが多い。この『眼目家伝書』は眼の治療についていろいろのことがその家伝として綴られたものである。
本書の序に次のごとく述べられている。「夫人之有両眼猶天之在両曜五臓之情気集眼甚清浄悉見三千界眼之不明者五臓不足之故也安可知心妹愚不見知治眼不聞古人書明不知五臓者如何而可治哉然問世間之占物過違多今以直道安集書具可学問者也」
本書はおよそ50葉、全1冊(135×20cm)よりなり、片仮名交りの和文で記述されている。本書の主な見出し項目は、
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薬種調合の事 |
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眼目見分けの事 |
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療治之条々並に古實の事 |
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科子目の事 |
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十ケ条の法度 |
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食物宜禁の事 |
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眼目療治眼目図 |
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五輪所属の図 |
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石薬能毒 |
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蘇桂老人丁春的伝和言集 |
以上の順で記述されている。
本書の病論は五輪所属の図を掲げ、中国明代の五輪八廓説によること明らかで、馬嶋流等の秘伝書にみられるものと大同小異である。眼病治療書としては眼目見分けの事と眼病図が重視されるといわれるが、本書においては眼病見分けの記述と限病図は別葉に記され、眼病図には各々に病名と簡単な療法と用薬が書き添えられている。例えば白内障の説明には、「内障ハ青、黄、赤、白、黒ノ五色有是ヨリ分レテ三十六種之品有トイヘドモ、先初ハ腫レトミトミト濁テカスムナリ、其後色々二分ル也。白内障二種ハ針ヲ以テ膿フ取リテ能々療治スレハ癒ル也、久シキハナフリカタシ、此ロハ腫テウスウスト濁リテ黒白ノ色ヲ見分カタシ惣目青モ有大ガイ寒ヨリ発ル也、初ハ何トモ無ク後ニハシクシクト針ニテ指様二痛ムモ有、
ヒヤヤカナル涙タリ或ハ黒花ノ散ハ内障ノ始卜可知」とあり、また、別に掲げられた眼病図、白内障の図には、白内障、内障、内障、大内障、石内障等5個の彩色図が描れている。このように病状によって幾種かの内障図を掲げているのは眼病の見分け方の稽古のためといっている。
「療治之条」には温金。熱金の当て方 内障に針を立てる事、灸の事、薬指様、等について述べているが、それぞれに大切な部分は"口伝有"、
と記され詳細は明らかにされていない。膜、外障、内障がまじり合っている目はそれぞれに分けて療治せよとしている。
石薬能毒の項には龍脳を始め、薬種およそ90種について、その用い方なども述べているが、製法は『眼目明鑑』により、あるいは、師にもとづいて極めよとしている。また、最後に記された蘇桂老人の「的伝和言集」は各種治論薬方を種類別に掲載したもので
その級類を以下のように類別している。
湯散九類 27種、指薬類 20種、 洗薬類 8種、掛薬類 7種、膿薬類 2種、水薬類 8種、 塗薬類 6種、蒸薬類
2種、一切ノ目痛ヲ止メル薬類 5種、鼻二入レル薬類 2種、耳へ入レル薬類 1種。
本書の成立年代は、明確でないが、本文中に薬種製法、灸法等は『眼目明鑑』(杏林庵医生輯、元禄2年刊 宝永4年改正刊)によるという記載があり、その成立を『眼目明鑑』刊行後と推測する。
この家伝書は、世間にある書物は過りや間違いが多いので、若い学徒のために解りやすく書いたものだといわれ、特に眼病図の白内障、外障
風眼等の類は見分け(診断)の稽古鍛錬のために同一眼病をその病態によって幾種かの彩色図を克明に描き説明を加えている点、また、100人に1人という珍しい肺膜、1000人に3人の割でみられるという目茸が図と共に掲げられていることは、珍しい眼病の見本として門人のために敢て例示しているように思われる。こうした点が、
とかく実地治療がもっばらであった当時の他の眼科秘伝書と本書が異なるところであり、一子相伝の秘伝書というより多数の学徒に教える目的で書かれたものと解する。秘伝書を公開する走りともいえるものであろうか。
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図2 図1同書眼病図。 病態の描写には苦心の模様であるが、彩色の丹念な図である。
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