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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (33)

42.『眼療秘伝書』です。

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眼科諸流派の秘伝書(33)
42.眼療秘伝書


わが国の中世末より近世初めにかけては実地医術の勃興で 多くの眼科流派が現れ、その各々が秘伝主義を固執し自己の一流一派を競い.数多くの伝書を作成した。 それらの内容はもとより中国(明代)の眼科をもとに和漢文にて書かれたもので、原著は大体限られていた。しかしこれが個々に師からに門人へ、あるいは親から子に伝えられる段階で、その重要部分は口伝、口授の方法がとられたために、そこに流派が興り、秘伝書が作られた。その重要部分を示す箇処には「口伝有之可秘」としるされた。この『眼療秘伝書』もこうしたしるしが何箇処もあるいわゆる秘伝書とみられるもので、当時の社会的必要が生んだ実地眼科医術書の一つとみることができる。

 この秘伝書は29葉全1冊(23.5×16.5cm)よりなり、和文の記載で、初めに眼目五輪八廓説、五輪之図、八廓之図、五輪所属主病之図、八廓所属主病之図を掲げ、次に眼病図入療治法、入薬、洗薬方等の順に述べられている。

 眼病療治にはおよそ52種類の眼病について、その図と病名、病態の説明、用薬および治療法の順序に記載している。その眼病名には以下のものが挙げられている。

 肝、心、肺、腎、膵等の臓器より起こる眼病、風入タル目、心脾、 トキノシタ(打目、大熱眼)、セムモク、入目(血筋熱風入タル目)、中露目、高筋目、チムクハト目、目ヒル、カウレム目、瞳物目、血中目、寒積目、 目老(目?)、眼キット目、国王眉目(五臓ノ病ヨリ起ル)大竜目、血肝、皮腸(血中風、原目)、大心目、筋相目、荷小目、天雲星、内丁目外丁目、聚筋目(底脾)、 針肝星、目腫、熱者目筋丁、大病目、白雲目、時目(切針、衝目、物ノ立タル目)、神色目、 目脳生、白萃老目(目火)、中火煎目、青脳火目(肝臓ヨリ起ル)風皇目(疫病ヲヤミソコナウ目)、毛目(眉毛ヨリ起ル)、眉目、肝骨目、相目、疫目、相腎目、小児イモハシカ病時目、伝死目、底脾類。

 これらの眼病には主に目明散、竜脳散等の薬物が使用され、底脾の類には針が用いられた模様であり、なお秘すところは「口伝」となっていて細かい記述は省かれている。

 入薬には竜脳散、辰砂散、紅梅散、止血散、麒麟血散、分身目明散、明珠散、真珠散、削星散、竜脳散別伝、同又方、大真珠散、虎膽散、虎眼散、襯紅散、 目明散、九竜散等が挙げられ、洗薬には黄連湯、当風湯、同又方、?香湯、楊梅湯、榛皮湯、珊瑚散、史君子丸、磨積円、多勝丸、玉明丹、明珠丹等が用いられている。この入薬として用いられた辰砂散は「真嶋流也、尾張国カイトウノ郷、マツハノ圧、安養院卜云、其寺別当大智坊第子元和法師其名ヲ民部卜云也、辰砂1分、樟脳1朱、竜脳2朱、石膏2朱、塩硝l分、右細研如常口伝有之可秘」とあり、真嶋流の秘薬の一つと思われる。また、秘伝薬洗眼珊瑚散には「此薬唐ノカンシウト云国に祚泰云人、蜀ノ聖僧に逢テ此薬ヲ伝也、其己後皮聖僧ヲ尋二不逢再三イマシメテ秘セシム、経山長老大恵禅師伝此方秘ス、其後日本へ伝授、タヤスク不可伝之」と、 この薬の由来について説明文があり、中国(唐)から伝えられた秘
伝の洗眼薬であったことが窺われる。その秘伝の薬、珊瑚散とはどんなくすりであったのだろう。「先塩三斤ハカリ能々去塵、湯二入、浮塵ヲ捨、湯ヲシタタメ捨、石鍋二入、カラカラトカワラカシテ、一斤ヲ鉢二入、能々細研シテ、又陶砂ヲー銭ノ重サ能々スリ皮一斤、塩等分合シテ見レバ珊瑚如玉ナル色故二珊瑚散と云」という秘薬とか、今日の食塩水か、硼酸水に近いものであったのだろうか。

 本書の成立についてはさだかでないが、その末葉に天文24年(1555)卯乙の相伝識語が認められている(後世の書写?)ところよりその内容はこの年代の眼病名やその治療法の一端を伝えているものと思われ、また、初期の馬嶋流眼科秘伝書にみられる眼病名と比べると異なっているものもある。しかし、この頃は眼病の分類や解剖学的知識はまだ進んでいなかったように思われる。

 

文 献

小川剣三郎: 稿本日本眼科小史49 吐鳳堂、東京、1904.  
小川剣三郎: 稿本日本眼科年表 小川剣三郎筆写、1928.  
富士川 遊: 日本医学史 162、 日新書院、東京、1943.  
石原 明: 医史学概説 171、医学書院、東京、 1955.  
石原 明: 日本の医学 15、63、至文堂、東京.1959.  
福島 義一: 日本眼科全書1 日本眼科史58.金原出版、東京、1954.  
中泉行正:  明治前日本医学史4 日本眼科史233 日本学士院編、日本学術振興会、東京、1964.  

 

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図1 『眼療秘伝書』  眼目五輪八廓説

天文24年(1555)書写相伝識

 




 
 
 

図2

図1と同書。

眼療。いろいろな眼病が彩色で描かれている。ソコヒに針を立てる仕方は口伝とある。

 

 

 
 
 
図3  図1と同書。
 

 

 
 
 
図4 図1と同書。右側のページが相伝識。
 

 

 

 

 

(1984年9月 中泉、中泉、齋藤)

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