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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (37)

46.『馬島流眼病之書』です。

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46.真嶋流眼病之書


 馬嶋流眼科の"馬嶋"という名称には真嶋、麻嶋、間嶋等いろいろな文字が当てられているが、それは唯その異を示そうとしたに止まるのではなかったか、それぞれの内容は大同小異であるといわれている。本書の識語にはこの一巻は高田左衛門大夫が相伝の書で、尾州真嶋流の秘伝書であるとしている。また、慶長15年正月の年号が識されているところより、多分この年に書写(某氏により)されたものと思われる。高田左衛門大夫という人が如何なる人物か不詳であるが、本書の相伝由来を識した条に、「抑々此書というは神武天皇の御代の時、 丹波の国、高田左衛門大夫、和気の典薬吉之といへし人、…中略… 薬師如来夢想に見来あつく此書を伝へ給う。…中略… 末代の重宝として此一巻の書かながきにうつし伝へるなり」とあり、高田左衛門大夫が薬師如来夢想のお告を秘伝として伝えられたものと推察される。

 この『眼病之書』は35葉、全1冊(18:21.5cm)の横長本よりなり、本文は平仮名を交えた和文で記され、全体に関読者の朱が入っている。また全体を眼抄上巻下巻に分ち、内容見出しに以下の項目が挙げられている。

眼抄上巻: 散薬の事、あらい薬の事、煉薬の事、眼の見様の事、内薬の事
眼抄下巻: 和国の薬部、本薬の部、薬替の事、薬名かずの事、和国の分粉、禁制の事、禁物の事、好物の事

 散薬には龍脳散、真珠散、大真珠明眼散、塩硝散、麝香散、次明散、白龍散、寒水散、及び辰砂散等が挙げられ、各々に異なる処方が示され、例えば龍脳散の処方には7種類の異なる調合方法が記されている。

 眼の見様の事、この項には先ず、五臓と眼の関連について「五臓のなか、いずれの臓わるきを見て其あしき臓を内薬をもってれうぢすべし」と述べ、個々の眼病に、ちやう目、目くさひら、いぼ目、やみ目、目つた(これは1、000人に1人のまれな病)、上そこひ、中そこひ、あをそこひ、きそこひ、ただれまけ等についてその見分け、療法を記している。また秘伝書には「此外にもあまた目の見様おおしといへども、先ずこれを以てもつばら
とす、此外の目は相伝、 口伝のどうりを能々こころへてれうぢすべし」とあり、とりわけ、そこひの療法に針を立てること、あつがね、ぬるがねを当てる方法はすべて口伝によると記している。

 本書では薬物を和国の部、本薬の部、和国の分粉、薬名かずの事等薬品の名、種類を分けて挙げ、和国の薬として、 はくちやうこう、 ぼれい、けつめいし、 くずの粉、明石、 とんしや、せう石等、本薬には龍脳、 しやうのう、かん水石、 しんしや、ゑんせう、 ほうしや、白ばん、石かう、 光みやうたん、 たん、りうたん、けつせき、 しやこう、せきこう、かいし、しやこつ等を挙げ、これらの効能、産地等を簡単に説明している。

 一般に馬嶋流眼科においては眼病中の禁忌、禁好食物が古くから選び出され、その秘伝書にも列挙されているが、本書には以下の様な記載がある。

 禁制: 婬、酒、湯、力、声、書、煙、曲、行、白
 禁物: そば、夕かほ、 けし、 まめ、さんせう、 いさく、あけび、きび、はじかみ、すいもの、 くるみ、 もぞく、ゆのす、からし、 うしやきつ、 さつ、たちばな、 しゑ、せんだい、いくら、いかもの類、 くしがき、 ごま、いのしし、ひともし、 せつ、 神高さう、 かんき、 ひじき、山のいも、たらいも、 くろだい、 ささぎ、ひゑ、だいこん、 うなぎ、 くさひら、かんゑのみ、すすき、あぶらあげ、はまち、 こし、あまだい、さるしうき、かのしし、むじな、かうのとり、さけ、あゆ、かに、ゑい、どじよう、あなうを、しび、 いるか、 たこ、 はも、 いわし、かじか、さいら、すばしり、かんだい、はた白、
 好物: ひらめ、こち、 あじ、 はらふ、 いちご、 かい付、かいのし、 しそ、 くらげ、 なまこ、かぶら、 ます、このはた、ちちみがい、むきいか、 うみがに、するめ、ふぐ、ところ、たら、 水鳥、 あこう、 しのむき、 たにし、なしこ、ひねかつを、ふき、きつね、すずめ、あづき、はまぐり、あをな、ごぼう、 くま、みようが、あまのり、ありさ、くす、夏もも、

 禁制のことは他の馬嶋(真嶋、麻嶋、間嶋)流眼科の秘伝書にもほぼ共通しているが、禁好食物の種類は多少異なっている。江戸時代初期には動植物の種類や能毒を説き、用法、主治、忌禁等を詳しく記した「宜禁本草」(曲直瀬道三著)のような立派な本草書は著わされていたが、これら本書の禁好食物は眼病者用として如何なる根拠の基に選び出されたのであろうか。このような真嶋流における眼病中の生活禁忌や食物の禁好選定が眼病治療の一助となっていたことは今日的にも理解されるところである。

 本書は尾州真嶋流眼科の眼病書であるが、主としてその薬物療法を記述したもので、ことに散薬など異なる処方各種を挙げ、また、薬物を本邦産のものと南蛮、唐、天竺産ものとに分け、各々に薬能、用法および主治等を記していることが注目される。

  文 献  
  雖知苦齊道三:  宜禁本草上下寛永版
  野田昌:  馬島流眼科と明眼院.大治町役場 1976
  小川剣三郎:  稿本日本眼科小史.62.吐鳳堂 1904
  福島義一:  日本眼科全書.1.日本眼科史58.金原出版 1954

 

 
 
 
図1 『馬島流眼病之書』巻頭。 竜脳散に異なる処方7種を挙げている。
 

 

 
 
 

 

図2  図1と同書、由来記。

 

 

 

   
 
図3 図1と同書、相伝識語。
 

 

 

 

(1985年1月 中泉、中泉、齋藤)

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