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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (39)

48.『眼目秘伝書』です。

 

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48 眼目秘伝書
 古写本の眼科秘伝書には書名がない場合が多く、記述の内容も眼目論(病論)、薬性論、眼目見様之次第、能毒、禁忌、好物および薬物処方等を挙げているのが通例であるが、すべてこのパターンというわけではない。こうしたところが古写本眼科秘伝書の特徴の一つであろうか、序論、本論、各論といった順序で記述されている成書と異なっている。つまり秘伝書は理論より実地を重視して述べられているものが多く、掲出の秘伝書もそうした類のものである。

 本書はその末尾に「寛文八年申暦二月廿一日、観弘書之」と識されているのみで、何れの流派の眼科を伝えたものか明らかでないが、 この頃の眼科を伝えたものと思われる。

 黒川道祐編纂に係る『本朝医考』(寛文3年序刊)巻中、「目醫」の条によると、当時名のある目医(眼科医)として馬嶋の外に佐々木、須磨、穂積等一家をなしていたものがあったといわれ、それぞれに一流一派をなしていたものと考えられる。その秘伝書といわれるものの一部が伝えられている。

 『眼目秘伝書』は21葉、全1冊(24.5×17cm)よりなり、片仮名交りの和文で記され、閲読者の朱入本である。内容は眼病療治之事、薬性之事、眼目見様之事、薬物処方等が主な項目に挙げられているが記述は極めて簡単で、備忘録的に要点を書きとめたものである。しかし眼病の病状説明には眼病名の上段にそれぞれ彩色の眼病絵図を描き、下段に眼病の説明、治療方法、その眼病に有効な指薬、内薬等の名を挙げている。この眼病絵図は眼病治療の実地経験から描写されたものであろうか、素描であるがよく要点をとらえて描かれている。こうした彩色眼病絵図は馬嶋流等の秘伝書、家伝書にもしばしばみられ、眼病の病状経過や診断、治療を行うに当たっても大変役立ったものと思われる。

 この様な彩色の眼病絵図は、わが国の眼科諸流派の秘伝書にはよく描かれているが、江戸時代の初め、わが国で初めて反刻された中国(唐、宋代)眼科専門書、『原機啓微』(薛己著、上、下、 附録、 承応3年刊)、『銀海精微』(上、下、寛永18年刊、寛文8年刊)等には線描の眼病絵図が載っている程度で、彩色のものは見当らない。こうした精巧な彩色眼病絵図によって微細な病変の表現を試みているものに伝文禄5年写(後世写?)とされる『摩嶋一流眼疾医書』に所載の眼目内外三十六色図がある。この三十六色図には以下の様な眼病

青内障、赤内障、黄内障、白内障、黒内障、疔目、永?膜、赤膜、白膜、藤膜、釣膜、八方釣膜、草膜、 目茸、目蛭、目?エイ(やまいだれに嬰)、目竹、上気目、疫目、風毒目、月輪、 目涌外障、蟹目、打目、推目、中障、客星、土肉、目鮹、目蓮、簾膜、時之熱.大熱気、爛膜、疹痘目
等が説明されたものであるが、『眼目秘伝書』にはすべて52種類の限病色図を載せ説明している。図の増加とともに眼病の種類の増加を示している。

 また、『眼目秘伝書』には「眼目見様之事」の条に病態の変化によって眼病の呼び名が変っていることを以下の様に記述している。

○月ノ輪卜云ハ黒眼ニシロクホソクイトノヤウニ出テ後ニ 三ケ月ノゴトクニナリタルヲ三ケ月レント云也.
 右ノゴトクニテ赤キ筋多クナミダナガレ 月ノマハリニテ サキアイタルフ万月レント云也.
 右ノゴトクニテ 月ノ輪アツテ 白クナリタルハ 月星卜云也.

○血ノ道卜云ハ マブタニ血アリ 黒眼二白キ上ヒ カカリテ ナミダ雨ノフルヤウニナガレカカル也.
 右ノゴトクニテ上ヒ山鳥ノハイロニ カカリタルヲ 山鳥上ヒト云也. 此目ハ男ガコドモニワカレタル人是ニナル.
 右ノゴトクニテ 上ヒトリイロニカカリタル チマケト云也.
 右ノゴトクニテ 右左ノ眼ノタカ出タルハ カウマケト云也.
 右ノゴトクニテ ヒキクナリタルハ 入目卜云也.
 右ノゴトクニテ ホシノ出タルハ 血ノ道星卜云也.
○ 目長ハムラサキ色二筋ナメチニトフリタルヲ 目長卜云也.
 右ノゴトク筋有テ タダレ黒キ上ヒ有目ノ内ニナミダ多有ルハ 本目長卜云也.
 右ノゴトクニテ 白眼ニアナノアキテウミノ出ルコトアリ コレハ目長ノハクサウト云也.
○白マケ赤筋黒眼ニ 十文字ニトヲリ 白クカタク上ヒノアルヲ 白クマケト云也.
 右ノヤウニ白眼ニ 赤筋ヲヲクイヅルヲ ツリマケト云也
 右ノヤウニ 赤筋ホソマリ 数多クヒクヲ イトマケト云也
 等々

 この様に当時の病名には解剖的とか系統的分類ではなく、単に経過症状の異なるによってそれぞれ別個に病名が与えられていた様に解する。

 以上のごとく本書は江戸初期から中期頃の薬物治療を主とした眼病治療法を伝えたものとみられ、その所載された彩色眼病絵図等も臨床経験によって生れた苦心の作と思われるがその表現された眼病は外眼病に限られていたということがわかる。

 

文 献    
  小川剣三郎: 稿本日本眼科小史.38、吐鳳堂.1905
  小川剣三郎:  稿本日本眼科年表. 小川生識、1929
  黒川道祐:   本朝医考( 上・中・下)、中、1663
  福島義一: 日本眼科全書、 1. 日本眼科史.63、 日本眼科学会編、 金原出版、1954
  中泉行正: 明治前日本医学史、4. 日本眼科史246.日本学士院編、 日本学術振興会、1964

 

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図1 『眼目秘伝書』 表紙
 



 
 
 
図2 図1と同書 巻頭書名
 



 

 
 
 
図3 図1と同書、眼病色図と説明
 

 

   
 
図4 図1と同書 巻末識語
 

 

 

 

(1985年3月 中泉、中泉、齋藤)

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