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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (41)

50.『眼目図解』(仮称)です。

 

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文庫の窓から 眼科諸流派の秘伝書(41)

50.眼目図解(仮称)

 この書名は外題箋に書かれたものを掲げたのであるが、これは後世において書店などで仮につけられたものと思われる。本書には内題もみられないが、項目の一つに「眼目図解」という見出し項目があり、 これが書名として付けられたのではないかと考えられる。この書名からすると、今日の眼病図解、手術図解と云った感じがするが、本書は一般的眼科治療書である。この古写本はおよそ30葉、全1冊(27×19.5cm)よりなり、片仮名混じりの和文で記述され、内容の見出し項目を次の様に掲げている。

眼目論、眼之禁物之事、薬性論、薬調合之日記、眼目図解、内障見様及療治之事、禁忌、好品、五臓論、懸切之事

「夫眼者五臓之精魂一生之宝也……人常可専養性岐伯云五臓六臓之精皆以目集也云々」
これは本書の眼目論の最初に書かれている文である。これは中国古代眼科の病理論、五輪八廓説などに基づいて論じられていることを示している。

 眼の禁物には、○(女+謡のつくり)、酒、湯、力、音、書、遠、笛、行、白等が挙げられ、これらは眼を暗くする基で、養性の人はよくこれを禁じ、慎しむべきである、 と述べている。

 薬性論に挙げられた薬物の種類には寒水石、活石、竜脳、辰砂、石央明石、石決明、 石乳、 火石、 幸石、 白竜、牡蛎、蛇骨、虎謄、決明子、雀目、貝歯、真珠、磨香、明磐、塩消、蓬砂、石膏、光明丹、黄丹、生脳、阜香、柳合石、烏賊、石角、活楼石等で、各その産地、用法、効能が書き添えられている。

 薬調合之日記、ここでは竜脳散を初めおよそ53種類の薬の調合のこと、すなわち薬物処方を記述している。

 次に眼目図解の項においては「熱膜ノヲワリ」を初め、およそ42個の眼病図(彩色素描)を挙げ、そのそれぞれの治療法、主に内薬、指薬、洗薬を用い、また、ヌル金、アツ金、引刀等を使用し、懸切なども行って眼病治療をしている。指薬として明星散、珊湖散、竜脳散、塩硝散、辰砂散、花石散、決明散、射香散、明眼散、真珠散、紅梅散、石膏散、白禁散、洗眼湯、また、内薬には補肝湯、三黄円、黄連、三黄丸等が用いられている。また、ここには黒、青、黄、赤、白ソコヒ等五つの内障治療法も述べられているが、白内障は肺臓の病で、針を立てて治療し、その外は内薬、指薬を用いて治療せよ、 としている。 「物少シモ不見不可療治」とあり、視力の極度に低下した眼の治療は全くなす術がなかったように思われる。

 内障の見様、療治の事、
 白ソコヒの治療法として針を立てる方法が用いられたが、その手順として、目尻、目頭に針を立て膿を引き出す方法、澄針(ソコヒを治して後の針)のこと、針を立てユガミの出た人見(瞳)を直ぐに治す口伝のことなどが順次述べられ、 また、針を立てる時は朝日が昇りよく晴れた日を撰ぶこと、病人は針を立てた場所でそのまま枕を高くして、手おいなどの養生の如くあたリヘ人を寄せず、二時(一時は今の二時間)計りして暗みへ入る、 と
ある。内障治療法は秘伝とされ、みだりに他人に明さなかったようである。

禁物・好品、
 食物の禁好品については他の秘伝書にも各種の品名を挙げているが、本書には次のものが列挙されている。

禁物
川魚類、マテ、 ニシン、サケ、鱸、貝類、エビ、黒鯛、生鯛、ブリ、フグ、イルカ、コノシロ、クジラ、カレイ、スシ、シビ、アヱガキ、 トリガイ、カモメ、アンコウ、
キジ鳥、蛸、サバ、サメ、ザコ、
山椒、豆腐、 タテ、 セリ、 カブナ、 生梅、ハジカミ(姜)、スモモ、胡桝、イリ物、メンシイ、竹子、カモ、ウリ、木ノ子類、海藻、ハタキ物、コンニャク、山の芋、家の芋、カラキ物類、アプラゲ、 ソバ、ササギ、生ヒトモシ、生大根、生ワラビ、生グリ、唐ノ芋、 ウド、モチ類、酒

好品
 ヒラメ、 カマス、カラサケ、アラメ、アゲノシ、サイリ、カイ、アワビ、 干鰹、 ヒダイ、 アマダイ、サザイ、ヒトモジ、アヅキ、 フシガキ、キ子り、 メウタン、ナスビ、 クズ、大根、カラシ、古イモノクキ、ホシワラビ、トウボシノモチ.、カウノ物、アワ、 ニラ

 この様に秘伝書に禁好食物を多数挙げていることは本邦諸流派眼科秘伝書のもつ特徴とも云われ、眼病治療に全身的療法を重んじ、 日常食品は常薬の考えで摂取されたのであろう。 なお豆腐は禁物に入っているが、『本朝食鑑』の主治欄には、「熱ヲ清シ、血ヲ散シ、赤眼腫痛ヲ治ス、脹満ヲ消シ、大腸ノ濁氣ヲ下シ、 久痢ヲ止メ配毒ヲ解ス」とある。

五臓論
ここには肝臓、心臓、肺臓、牌臓、腎臓、等所謂五臓の寒にはどんな症状が現れ、 これに効く薬を挙げ、その療法を述べている。

懸切之事
懸切の方法にはカタ切、ナデ切、 フリ切、カウシ切、ソギ切、ケズリ切、 ツリ切、ヘヅリ切、サカデ切、ホリ切、 ワケ切、スイ切、ヘキ切、カケ切等があり、眼病によりそれぞれの方法が施された。その中の1つ「ソギ切」をみると次の様に説明されている。
「ソギ切トハ 目ブタヲカヘシテミルニ、 イチゴヂヲイ出タルヲ 引刀ヲヨコニ持テソギ切也、小サキヲバキラズ、大ナルノコト也、白眼ニモ出ル物也。ソギケヅリテヌル金ヲ當テ薬ヲ指ス也」

 この様に懸切、即ち1種の釣(切カマ)を使用して血管をひきかけて載断する方法(福島義一著、『日本眼科全書』)には14通りもあって当時の手術療法としてよく行われたものと思われる。

 以上本書の内容について項目に従って略述したが、 この内容は本誌(臨眼38巻12号)掲出の『生嶋殿眼科秘伝書』とよく似ていることがわかる。あるいは本書も江戸時代初期の秘伝書を伝えたものと推察されるがその成立年代等は定かではない。ただ本書の「薬調合之日記」の項に記された五霊膏等の練薬について次の様な認め(したため)がある。
「右練薬口伝有事 *東福寺了渡唐之時相傳、 此方紫野宗勝傳受畢・於蔵州葛山四郎殿拙者二相傳ナリ」

 五霊膏等の練薬が了庵和尚を通じ唐土(中国)よりわが国に伝えられ、更に次々と相伝されたことが窺える。

 本書はその内容等を、白内障手術等を最も重視した馬島流眼科の秘伝書等に比較する時、懸切などの手術方法についてやや詳しく書かれた眼科治療書の一つであるといえる。

参考文献      
  平野 必大: 本朝食鑑 巻2 元禄10、1697  
  曲直瀬道三: 宜禁木草 上・下  寛永版  
  小川剣三郎: 稿本日本眼科小史.29、57、吐鳳堂、1904_  
  鈴木 宜民: 皇漢限科に於ける食物の禁好に就いて。日本医史学雑誌、1314、147、 日本医学会、1943.  
  福島 義一: 古医書にみゆる眼病の禁物と好物に就て 綜眼、38、596、綜合眼科雑誌社、 1943  
  金岡秀友: 古寺名刹辞典、257、 東京堂出版、1973   


*聖一国師開山I:  臨済宗東福寺派(京都市) 「寺を"東福"と名付けたのは洪基を東大についで盛業を興福に取る」 と九条道家の発願にあり、東大寺と興福寺の二大寺の一字ずつを取るによる。寺には聖一国師が宋より帰朝の折、携え帰ったと伝えられる一千余巻の典籍が残されているという。


 
 
図1 『眼目図解』 眼病の図解としては図も説明も簡単である。

 

 
 
図2 図1同書。薬調合の事。薬の拵え様も治療術の大事な秘伝。

 

 

 

(1985年5月 中泉、中泉、齋藤)

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