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研医会図書館は近現代の眼科医書と東洋医学の古医書を所蔵する図書館です。

この研医会通信では、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

今回は 眼科諸流派の秘伝書 (42)

51.『根来流眼目秘方』です。

 

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文庫の窓から 眼科諸流派の秘伝書(42)

51 根来流眼目秘方


 根来流眼科の由来については寛保2年(1741)に根来東叔によって著わされた『眼目暁解』の中に「僧空海・支那に渡レル時生来眼病アリ彼地ニテ治ヲ乞ヒ癒ユルコトヲ得、兼テ其治法ヲ学ビ帰朝シ高野山ノ僧徒ニコノ術ヲ傳ユ、根来寺*ニモ傳ヘテ福本坊法印宥賢二傳ハリ後遂に俗人二傳ハリ云々」(小川剣三郎著『稿本日本眼科小史』)と述べられているように、その眼科は弘法大師によって中国より高野山の僧徒に傳わり、更に庶民の間に伝えられたことが窺える。根来寺から伝えられた術により根来流とされたのであろうか、『根来流眼目秘方』もまたその限科を伝えるものであろうか。


 本書はおよそ13葉、全l冊(12.7×19.5cm)横長本で、本文は片仮名交り和文で記述され、第10葉めに
「右此一流秘傳ニテ候ヘドモ相傳仕候他見有間敷者也仍而如件 根来不動院 在判
寛永八年六月吉日」
と識され、 この写本は寛永8年(1631)以降の書写本と推される。なお、『国書総目録』(岩波)第6巻によれば『根米不動院眼療書』(安永6年写、 1冊、無窺会神習文庫蔵)の1本がある。

 『根来流眼目秘方』には『眼目暁解』にみられる根来流眼科の由来についての記述等はなく、前記相伝識があるのみで、内容の主な記述を挙げれば以下のごとくである。

十二方之煎薬ニテ七十二症之眼目養療
菊花湯(萬眼病之内薬)
加減四物湯(婦人血道目ニ良也)
當皈湯(突目、打目ニ良)
人参湯(熱氣有ル目ニ良)
二和湯(内障二良)
栞白湯(時行目ニ良)
キョウ活湯(目尻赤痛二良)
黄良湯(上氣シ赤血之走リタルニ良)
五味子湯(腎之臓虚而目ニ涙有二良)
蘇木湯(外障血目ニ良)
養血湯(目ニ多ク血之ヨリ腫ルニ良)
升广湯(マケ目ニ良)

 目之見様ノ事(次の眼病の見立のこと、 :フジマケ、キリマケ、 目タケ、 目ビル、外障之事、中障之事、 五色之内障之事、青内障之事、黒内障之事。

 右目ノ見様サマザマ有トイエドモ大方此見様二極ル物也、此外見様ハ女ノ血道有、人ヲバ血道目卜云、ロウサイケナル人ハ虚眼卜云、 ソレゾレニ名ヲ付也。

 龍脳丹(スミクスリ也): 竜脳、广香、ホウシャ、辰砂、光明丹、真珠、石膏、寒水石、

 玉ヲスマシ、ニゴリヲノケ、 ウヅキヲ止、萬スミ薬也、万事ノ目ニ先此薬ヲサスベシ、

 真珠散: 真珠、竜脳、『香、 ロガン石、赤貝、石膏、ホウシャ、寒水石、

 此薬ハ星外障マケ萬事ニゴリヲノケ萬二良、眼ウヅク中ハ男ハ女子ノ有ル乳ニテトキサス也、女ハ男子ノ有ル乳ニテトキサス也。

 眼目散(カケ薬也): ロガン石、石膏、ボレイ、寒水石、ヤウカイ。

 ツクルセン薬ノ事: 黄連、黄栢、石菖、水。

 此薬ハ外障マケ、星目、 ビル目タケ万カカリ物二少宛カケル也、イカヤウノ外障星ナリトモ此カケ薬良。
 
 金明丹: 真珠、辰砂、カイセキ、 コシャウ、烏賊、此薬ハ星外障、中障、内障、 目ビル、 目タケ、万ノ目ノ病ヲ能々クサラシ、ニゴリヲノケ、年寄ノ目ニ良。

 五霊膏: 黄連(潟心火)、黄栢(湿熱腎熱ヲ止也)、赤芍(養血止痛)、防風(去風氣)、杏仁、

 後合薬之事: ロカン石、ホウシャ、 クマノイ、广香、竜脳。

 此薬ハヤミ目、タダレ目、老眼、 ヒエ目、 マケ、 ドニク、萬血ノ寄タル目ニ良也。

 此薬ノサシ様之事: 血目ニハ真珠散三度、五霊膏三度、竜脳丹三度合セテ一日九度サスベシ。
 星外障萬カカリ物ニハ金明丹三度、カケ薬三度、スミ薬三度、合セテ一日九度サスベシ。

 右何様之目成共此薬計ニテイカニモヤハラカニ療治スル也、此一流ニハ切リ焼キスル事大キニ忌也。

 洗薬之事: 辰砂、石膏、白?、竜骨、竜脳。
 同煎洗薬之事: 黄連、黄柏、石菖
 久敷不癒黒内障ニハ十四其人ノ長高指ニテ四ツ秤ニテ指ノ節マデノ寸ヲ取ニ○(完+りっとう)両方ヘ大骨トアチラコチラヘ當百日程灸スベシ。一日百程宛其後三ノ堆ヲスベシ亦其後ニ三里ニ三日スベシ、是ハ至極秘伝之灸也。目瘡之灸ハ一ノ骨ノ両脇ニ百灸スベシ、コレハ至極妙灸也。

この様に本書は薬の処方を主とした眼病治療書にして、眼病論や内障眼等の手術についてはふれておらず、
備忘録的に書かれたものであり、 ただ黒内障、目瘡の治療に灸法が用いられ、灸が極秘伝とされていることが窺える。それ故本書でみるかぎりでは根米流眼科の根来東叔が享保17年(1732)に験屍をなし、人骨を観察して写生し、説明文を付けて『人身連骨真形図』を寛保元年(1741)に作成し、わが国の解剖学史上、験屍の先駆をなしたということ、また、東叔の『眼目暁解』に白内障手術の経験をもとにし、 想像による眼球内景図を示し白内障が中障即ち眼球中央の一区域の病気であることを、わが国で最初に述べた人であること等との関係はみられない。『根来流眼目秘方』、『根来不動院眼療書』は根来不動院から伝え授けられた秘伝書であり、一方、根来東叔の『眼目暁解』は根米寺から伝えられた眼科が後世紀州から大阪、京都に進出した根来家によって受継がれ、根来流眼科の東叔代に至って、根来寺から伝えられた眼科に近世諸家の秘要を加えて大成した秘伝書と考えられる。

 

* 根来寺: 大伝法院の別名があり、 和歌山県那賀郡根来にある。覚鑁大師の開基、 新義真言宗大本山、 初め高野山にあったが1290年根来に移る。多宝塔で名高い、不動堂にはいわゆる錐揉不動尊を奉安する。


参考文献 師   蛮:  本朝高僧伝 巻12(元禄15版)京都、貝葉書院.  
    平凡社大百科事典 巻16、 148、 平凡社、東京、1940(2版).  
  金岡 秀友: 古寺名刹辞典、276、東京堂 1973.  
  坂本 太郎: 日本史小辞典、545、山川出版、1959.  
  水野 弘元:  新仏典解題事典、春秋社、1966.  
  小川剣三郎:  稿本日本眼科小史、45、94、吐鳳堂、1904.  
  小川 鼎三:  明治前日本医学史 1、 日本解剖学史80、 日本学術振興会、1955.  
内山 孝一:  明治前日本医学史 2、 日本生理学史 133、 日本学術振興会、1955.
中泉 行正:  明治前日本医学史 4、 日本眼科史282 日本学術振興会、1964.
福島 義一:  日本眼科全書 1、 日本眼科史77、金原出版、1954.


 


 
 

 

図1 根来流眼目秘方

相伝識。原本には根来不動院の印判が押されていたものと思われる。

 

 
 

図2 家秘眼目暁解

内障治法。文化2年(1805) 渋谷敬写之於済美堂。

 

 

 

(1985年6月 中泉、中泉、齋藤)

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