本年2023年はシーボルト来日200周年の年に当たるということで、長崎の歴史文化博物館では「大シーボルト展」が企画され(9月30日から11月12日)、関連の講座が開かれました。私も11月4日に行われた梶輝行先生(横浜薬科大学薬学部教授・教職課程センター長)の「シーボルトの日本研究と伊能図をめぐる事件」を拝聴し、シーボルト事件の真相について、新たな情報を得てきました。
そこで、今月は江戸時代の長崎観光ガイドとでもいうべき『長崎土産』を取り上げることにいたしました。
この本は浮世絵画家、渓斎池田栄泉の門人で、江戸で学んだこともある文斎礒野信春が著したもので、1枚の地図と16の絵で長崎の風景や唐人、オランダ人、祭り、建物などを紹介しています。信春は絵も文章も書ける人物であったようで、本の後半には文章による長崎の紹介がなされています。
取り上げられているのは、清朝人、紅毛人、唐船、唐館(とうやしき)、無凢(コンピラ)山、眼鏡橋、蘭船(オランダぶね)、蘭館(オランダやしき)、オランダ婦人、象、大波戸、諏訪社、神事踊子(じんじおどり)、御崎(みさき)、唐寺(とうでら)、媽姐揚(ぼさあげ)で、それぞれ様子がよくわかる絵となっています。
最後の媽姐揚(ぼさあげ)を読むと、中国や東南アジアからやってきた船人らが、その信仰する媽姐の像を長崎に停泊している間、唐寺に移してお祀りするため、銅鑼を鳴らしながら媽姐堂まで行くことなどが記されています。私はかつて、シンガポールの食堂で、棚に祀られた媽姐像がどのようなものなのか、お店の人に尋ねたことがありますが、東南アジアの海で信じられている媽姐は、江戸時代の長崎にも来ていたのだ、と面白く思いました。
今も大通り沿いに鳥居の見える諏訪社のかつての景色など、今ものこる長崎の観光名所の絵を、眺めるのは興味深いものです。
追記: 扉(表紙裏)にある魁星印(あるいは文昌帝?)の図柄が、よく見る北斗七星ではなく、持っているものも筆というより、撥のようで、いろいろなバージョンがあることに気づきました。
図1 『長崎土産』扉と巻頭の序
図2 同本 地図のページ
図3 同本 眼鏡橋のページ
図4 同本 媽姐揚のページ