『叢桂偶記』 原南陽
今月は原南陽の『叢桂偶記』をご紹介します。大分以前のことになりますが、この本を読む読書会が東邦大学東洋医学科の先生方によって行われていました。その講師となった石田肇先生(群馬大学名誉教授)には、高校で世界史を習っておりましたので(当時は高校に講師としておいででした)、そのご縁で読書会に参加させていただきました。
著者の序文には「折にふれ 事につきて 予がかんがへることどもを門人等 あとさきのけちめもなく みだりかはしく集め記したるが」便宜を考えてそうしたものを整理して一書の姿にしたものが、この『叢桂偶記』という本だとあります。原南陽は、水戸藩医の子で名は昌克、室号は叢桂亭、この号から書名が付けられています。
言ってみれば、医学や薬学に関するエッセイ集のような本で、取り上げる話題は歴史あり、伝説あり、自身の医術や医学の考え方に関することもあり、いろいろでとても面白いものです。巻一の最初は「張仲景」。『傷寒論』の著者とされる人物についての考察です。また、巻二の中にある「蟲」では『霊枢』『肘後方』『夢渓筆談』『経験方』『七修類藁』『洗莬録』『医学正伝』など、多くの書名を挙げて、この呪いにも使う不思議な「蟲」について、書いています。医学と巫術のグレーゾーンについても医師である南陽が取り上げていることは、この人物の頭の柔らかさ、思考の自由さを物語っていると思われます。