研医会通信  3号  2006.9.11
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『百花詩図考』より

 

このホームページでは、当館所蔵の古医書をご紹介いたします。

この号もひきつづき啓迪集です。

 

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  啓迪集(2)
   

『啓迪集』にのべられている道三の医学説とは、疾病には外感と内傷とあって、外感の病因は風、湿であって、寒、暑、燥、火はその現われである。疾病を受けるものは気、血、痰で、特に気、血の2病を重視している。気の寒熱順滞は小便の性状により、血のそれは大便の性状で知る。もし大小便両方に何らの異常がなければ経中脈外の疾病であるとし、気、血、痰の症が久しく続くようならば鬱を生じ、6種の鬱滞病から100病を惹き起す。

 精神障害のような7情の鬱および臓腑の気の滞るによって飲労役不足の証を発し、陰これを受けて臓に入り内傷の病を生ずる。故に治方は専ら病因を知っておいて施行し、風によって発するものには、利水の剤を投与する。用薬の目標は補瀉であって、血、気、痰それぞれに補瀉の主剤を配した(石原明男、『医史学概説』)。

 こうした諭旨で個々の疾病を名証、由来、弁因、真証、類証、証例所在、脈法、予知、治方、灸法、奇方、悪候、宜禁などに分けて論説している。

 本書の眼目門もこの論法で記述されているが、より手短に知って頂くためには『啓迪集』の基になった『類証弁異全九集』に掲載されている眼目門を挙げることが最適と考えるので次に揚げる。


眼目門(『全九集』)
 内経に曰く。目は血を得てよく物を見ると。けだし、血にはまた太過不及あり。太過なる時は目 壅塞して痛み 不足なる時は目 耗竭して暗し。年少壮人は血の有余なるべし、老人は血の不足なるべし。是亦大○(ガイ・概のキヘンが下についた字)の説也。なお詳に虚実を察すべし。

 五輪火に依って病をなすの諭

烏晴を風輪と云う。肝木に属す。火肝をおかせば 目くらし。内し眥外眥を血輪と云う。心火に属す。火自ら盛なれば 赤脉目をつらぬく、上下の○(目に包)を内輪と云う。脾土に属す。火脾をおかせばまぶたはるるなり。白晴を気輪と云う。肺金に属す。火肺をおかせば 人み くもる也。右五輪の論。俗医皆これを知る。しかも目疾あれば その由来をわきまへず。目は火によらざれば やまざるものなりと。


 治例
 腎経虚損し、目くらく、久しくみえざるには空心に腎の補薬を用いて食後に清涼の薬を用よ。肝経風熱をうけ或は酒にやぶられ、赤く黄なるには大黄、黄連の類を用べし。脾経熱をうけ、まぶた、はれ、風あればしぶりかゆし。梔子、竹葉の類を用べし。肺経熱して肝を尅し、漸くまけとなる。白まなこに瘡生じ、はるるなり。是は熱きものを食したる故なり。桑白皮の類を用う。心経熱し五臓ふさがり熱してまなじりかしらあかく、しぶるには、梔子に大黄、連翹、燈心、竹葉を用て治す。風証は散ぜよ。きつ花、細辛、防風、黄ゴン、荊芥、熱証はすずしふせよ。地黄、黄連、決明子、黄ゴン、石膏気結せば、順ぜよ。桑白皮、升麻、黄ゴン、菊花。血大過ならば、血を瀉せよ。桃仁、芍薬、生地黄、黄ゴン。血熱せば地黄、芍薬の類を用べし。腎虚せば をぎのうべし。五味子、兎絲(つくりは系)子、地黄、枸杞(つくりは巳)、覆盆子、肝鬱せば調よ。梔子、車前子、當帰、地黄。

 


『弁証配剤医燈』眼目の部  『啓迪集』と同じ表解式の記述

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『授蒙聖功方』眼目
眼目之治方
 

 

二妙散:  肝をやしない、目くらく、なみだこぼるるに良。當帰、熟地黄各等分。右細末してよき酒にて調下す。
洗肝湯:  肝実して眼をやむを治す。人参、黄ゴン、亦茯苓、梔子、川キュウ、柴胡、地骨皮、甘菊花、桔梗各1両。黄連、甘草各半両。右咀明して苦竹の葉を入れ煎じ、食後に用う。
瀉肝散:  肝熱して眼あかくはれ 痛むを治す。梔子、荊芥、大黄、甘草各等分。右 刻み煎じて服すべし。
撥雲散:   風毒を散じ、まけをしりぞけ赤く爛るによし。差活、防風、シツ藜、荊芥、蝉蛻、甘菊花各等分。右細末して桑白皮の煎湯にて調下す。
同銘:   男女風毒升り攻め、目くらく、まけいで熱涙ながれ、まぶた赤くただれ、まじり、まがしらよりオ肉さし出で人みをおかすを治す。差活、防風、柴胡、甘草各一両。右刻み煎服す。又細抹して茶の上ずみにて調下す。魚鳥温麪あぶりもの、やきもの風を発する等の物をいむ。
地黄散:   白まなこ赤く、かゆく、風に向へばなみだ出で、しふつて開き難きを治す。生地黄一両、赤芍半両、當帰、甘草各半両。右刻み煎じ食後に温服す。
細辛飲:  眼晴いたみこらうぺからざるを治す。白シ、細辛、防風、赤芍各等分。右せんじ服す。
明眼地黄円: 男女肝虚し、積熱のぼり攻め、まけ発り、なみだ多く、俄にあかきを治す。腎肝損し、風.邪のをかすによし。牛膝三両、石斛、枳殻、杏仁、防風各四両、生地黄、熟地黄各一斤。右末して丸じ、食前に塩湯にて送下す。
荊芥散: 肝経熱し、目あかくはるるを治す。荊芥、當帰、赤芍各一両半、黄連。右刻み煎じ三沸してまなこを洗へ。
  一方、にわかに赤く熱し、腫れたる眼を治す。黄連、黄栢、赤芍、杏仁各等分。銅鉄一箇。右煎青絹(つくりの口はム)のきれを浸し眼を洗。
  一方、なみだ出不留を治す。黄連をこく煎じ其汁にわたをひたしほしてのごへ。
  一方、目の中の百病を治す、乳汁にて黄連を煎じさいさいあらへ。
  一方、虚労の眼を治す。三月のなたねの花を取りかけぼしにして末し、井花氷にて毎日空心に用うべし、久しく服すれば長生して夜細字をよむ。
竜脳散: 白丁香、竜脳。右等分細抹し、極めて研て眼の角に指ベし。
真珠散: 真珠一分、蓬砂二分、竜脳二分、古礬一朱、石膏二朱。右細末していかにもよくすつて指すべし。
珍珠散: 眼目の諸疾を治す。爐甘石、一両V而黄連煎、汁七摘入之研、竜脳、研一朱、ズイ仁、一朱去油研。
白丁香、去黒研一銖。右細末し、いかにもいかにも久しくすつて指すべし。
『能毒』 道三医学では、薬剤も重視した。

    
 こうして当時の道三流医学の諸書をみると『啓迪集』は、概して学問的に理論を中心に書かれており、『全九集』は理論を簡単に治療方、薬剤処方を中心に書かれている
ように思われる。つまり『啓迪集』は学者向であり、『全九集』は実地医家向に著作されているように思われる。

(昭和54年 中泉、中泉、齋藤)

 

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