『啓迪集』にのべられている道三の医学説とは、疾病には外感と内傷とあって、外感の病因は風、湿であって、寒、暑、燥、火はその現われである。疾病を受けるものは気、血、痰で、特に気、血の2病を重視している。気の寒熱順滞は小便の性状により、血のそれは大便の性状で知る。もし大小便両方に何らの異常がなければ経中脈外の疾病であるとし、気、血、痰の症が久しく続くようならば鬱を生じ、6種の鬱滞病から100病を惹き起す。
精神障害のような7情の鬱および臓腑の気の滞るによって飲労役不足の証を発し、陰これを受けて臓に入り内傷の病を生ずる。故に治方は専ら病因を知っておいて施行し、風によって発するものには、利水の剤を投与する。用薬の目標は補瀉であって、血、気、痰それぞれに補瀉の主剤を配した(石原明男、『医史学概説』)。
こうした諭旨で個々の疾病を名証、由来、弁因、真証、類証、証例所在、脈法、予知、治方、灸法、奇方、悪候、宜禁などに分けて論説している。
本書の眼目門もこの論法で記述されているが、より手短に知って頂くためには『啓迪集』の基になった『類証弁異全九集』に掲載されている眼目門を挙げることが最適と考えるので次に揚げる。
眼目門(『全九集』)
内経に曰く。目は血を得てよく物を見ると。けだし、血にはまた太過不及あり。太過なる時は目 壅塞して痛み 不足なる時は目
耗竭して暗し。年少壮人は血の有余なるべし、老人は血の不足なるべし。是亦大○(ガイ・概のキヘンが下についた字)の説也。なお詳に虚実を察すべし。
五輪火に依って病をなすの諭
烏晴を風輪と云う。肝木に属す。火肝をおかせば 目くらし。内し眥外眥を血輪と云う。心火に属す。火自ら盛なれば 赤脉目をつらぬく、上下の○(目に包)を内輪と云う。脾土に属す。火脾をおかせばまぶたはるるなり。白晴を気輪と云う。肺金に属す。火肺をおかせば 人み くもる也。右五輪の論。俗医皆これを知る。しかも目疾あれば その由来をわきまへず。目は火によらざれば やまざるものなりと。
治例
腎経虚損し、目くらく、久しくみえざるには空心に腎の補薬を用いて食後に清涼の薬を用よ。肝経風熱をうけ或は酒にやぶられ、赤く黄なるには大黄、黄連の類を用べし。脾経熱をうけ、まぶた、はれ、風あればしぶりかゆし。梔子、竹葉の類を用べし。肺経熱して肝を尅し、漸くまけとなる。白まなこに瘡生じ、はるるなり。是は熱きものを食したる故なり。桑白皮の類を用う。心経熱し五臓ふさがり熱してまなじりかしらあかく、しぶるには、梔子に大黄、連翹、燈心、竹葉を用て治す。風証は散ぜよ。きつ花、細辛、防風、黄ゴン、荊芥、熱証はすずしふせよ。地黄、黄連、決明子、黄ゴン、石膏気結せば、順ぜよ。桑白皮、升麻、黄ゴン、菊花。血大過ならば、血を瀉せよ。桃仁、芍薬、生地黄、黄ゴン。血熱せば地黄、芍薬の類を用べし。腎虚せば をぎのうべし。五味子、兎絲(つくりは系)子、地黄、枸杞(つくりは巳)、覆盆子、肝鬱せば調よ。梔子、車前子、當帰、地黄。
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